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2007年1月28日 (日)

舌切りすずめ

おじいさんの可愛がっていたスズメが、こしらえておいた洗濯糊を食べてしまった。 その事に腹を立てたばあさんが、仕置きとしてスズメの舌を切ってしまうという、あの昔話だ。
何でそんなことをするんだっ! と、このとんでもないばあさんに怒りを覚えたものだ。
そして、ばあさんのあまりの強欲ぶりに、心底呆れかえった。
こんな大人にはなりたくないと、子供心に強く思っていた。

私が小学校低学年だった頃、休日に父と母が近所の子供達や友人を誘い、遊びに連れて行ってくれたことがあった。
何かのイベントだったのだろうか、あまりよく覚えていないが、たくさんの露店が出ていた事は覚えている。

その中の1店で、私は父にねだり 『お楽しみ箱』 なるものを買ってもらったのだから。
『お楽しみ箱』 は、とてもシンプルなものだった。
中が見えないように、キッチリ包装された箱の中から、1つ選ぶだけなのだ。
店先に張られたチラシには、「うでどけいやラジオ、ぬいぐるみなどが入っています。」 と書かれてあった。
それを見た私は大興奮である。
時計なんて、大人しか着けられないモノと、思っていたからだ。
もう、狙うは時計だけである。
フと目をやると、大小2種類の箱があった。
父に聞くと、大きい方は500円、小さい方は300円との事だった。
時計しか狙っていなかった私は、「時計なんていいものは、500円のほうに入っているに違いない。」 と思い、父にお金を払ってもらった。
そこからが大変だった。
中なんて見えるわけもないのに、ジーッと箱を睨み、こっそり振ったりもした。
友人達も多少悩んでいたが、次々選んでその場を離れていく。

一人モタモタしている私を父がせかす。
置いて行かれては困るので、何とか頑張って箱を選んだ。
そして、それを大事に抱え、ベンチに腰掛けた。
いよいよ箱の中身とご対面である。
はやる心をおさえつつ、ゆっくり包装紙をはがしていく。
茶色の箱が姿を現し、私はそのフタに指をかけた。
「・・・違う」
箱の中を覗いた瞬間、私は落ち込んだ。
盛り上がっていた分、その落ち込み方は普通ではなかった。
一人ドンヨリしているそんな私の後ろから、
「すっごーいっっ!!」
と、甲高い声がする。
ノロノロと振り返った私の目に、時計を手にした友人の姿が飛び込んできた。
「あっ・・・・・」
私は知っている。 
彼女は迷うことなく300円の箱を手にしたのだ。
そんな彼女に私は、「それでいいの? トケイとかは大きい箱に入ってると思うけど・・・」 と言ったのだが、「今日、鞄持ってきてないねん。 だから小さい方。 トケイは・・・いいや。」 と笑顔で答えたのだ。

その瞬間、舌切りすずめを思い出した。
彼女は、自分の状況を考え判断し、小さいつづらを選んだ優しいおじいさん。
私は間違いなく、欲に目がくらみ、大きいつづらを奪ったイジワルばあさんである。 あんな大人には絶対になるまいと固く誓ったはずなのに、気が付けば子供ながら、この有様である。
私は、お世辞にも可愛いとは言い難い、ズングリとした灰色のネズミらしきヌイグルミを手に、呆然と立ちつくすしかなかった。

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