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2007年6月19日 (火)

真夏日の階段

半月ほど前の昼過ぎ。
私は銀行での用事を済ませ会社に戻ろうと、地上へと続く階段を上っていた。
風にめくり上げられそうなスカートの裾を気にしつつ、一段一段上っていく。
「昔は一段とばしとかしてたのになぁ。」
そんなどうでもいいことを考えながら足を進める私の視界に、男性の革靴が入った。
私は視線を足下におとしたまま、少し横に避けた。

「あの、すみません。」
すれ違おうとした瞬間、その男性に声をかけられた。
その時初めて顔をあげた私は、マジマジと彼を見た。
手にはビジネスバッグ、キチンと着たスーツの襟元には社章とおぼしきピンバッジが輝いている。
歳は・・・40代前半といったところか。
『この男性、営業に来たものの迷子になったんじゃないのか。 なら、道を聞かれるって事か。 ・・・私の手には負えないかも。』
私は一瞬のうちに勝手なストーリーを作り出し、不安になっていた。

なぜなら私は、とんでもない方向音痴なのだ。
「はい。 なんでしょう?」
私は不安を隠し、笑顔で聞いた。
その言葉に男性も笑顔で言う。
「この上の会社にお勤めですよね。 以前に何度かお会いしたことがあるので。」
私が勤める会社の方を指さしそう言った彼を見ながら、私はパニックになった。
『社長の知り合いか。 それとも取引先の人なのか。 誰だ、誰だ、誰なんだーーー!』
笑顔を絶やさぬまま、私は脳内の人物辞典を勢いよくめくっていく。
だが目の前にいる男性の顔は、残念ながら出てはこなかった。 もしも会社関係だった場合、失礼があってはいけない。
心の中で大汗をかきながらも笑顔を絶やさず、軽く探りを入れてみることにした。
「ええ、そうですが。 事務所にお越しでしたか?」
以前 事務所に来たのか、今日 事務所に寄ったのか、どちらでも取れる言い方で様子を窺ってみた。

すると男性は笑いながら、予想もしていなかった事を言ったのだ。

「いやいや、道で何度かお見かけしましてね、一度お話したいなぁと思ってたんですよ~。 お仕事、もう終わられます?」

「は・・ぁ。・・・・・・いえ・・・・・・・・」

私は顔面に引きつった笑顔を貼り付けたまま、そう答えるのがやっとだった。
『なんなのだ、このオヤジはっ! 全然知らないオッサンだったのかっ! 私の労力を返せっ!』
そんな私の心中を全く察する事もなく上機嫌で喋っている男性は、またとんでも無いことを口にしだした。

お仕事まだまだ終わりそうにないですか? でしたら私、待ちますよ。 何時間でも待ちますよ。 それがお嫌なら、終わる頃にお迎えに上がりましょうか? お話ししたい事もありますし。」

『お迎えって・・・ いやぁ、それももっと嫌なんですけど』
思わず言いそうになる自分を押さえつけ、
「いえ、そんな。 何時に終わるかも分かりませんし、ね。」
と断った。
そしてまだ何か言いたげな彼に、威圧的かつ何も言わせるものか という笑顔を投げかけ、
「では。」
と、その場を離れたのだった。


あの男性は何者だったのだろう。

昼から何時間でも待ち続けられるなんて、時間を持て余しているにもほどがある。
一体どんな仕事をしているんだろうか。
お話ししたい事って何だったのだろう。
そんな事よりあのオヤジ、どっかに潜んではいないだろうなっ。
しばらくは警戒しようと思った私だったが、特徴のないその男性の顔を、全く思い出せないでいる。

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2007年6月 6日 (水)

恩人は・・・④

「モウソウニンシンって知ってます~?」

人見知りの後輩が慣れたのか、シラフの時には半端ない警戒網をはる私がソレを解いたのかは分からないが、いつしか馴染んでいった2人。
後輩は、幾重にも被ったネコを脱ぎ捨てていったようだ。
結果、こんな言葉がどんどん飛び出すようになっていった。
もうお分かりの方もいるだろうが、くらげ箱に度々登場するアノ 『後輩』 が、静かで控えめな後輩の正体なのだ。
驚くべき変化である。

「はぁ? モウソウニンシン? 知らんなぁ。」
彼女の言いたい事は解っているのだが、わざとトボケてみる。
「ええーっ! 知らないんっすかぁ? 何にもないのに頭ン中で妄想して、妊娠したみたいな症状がでたりするんっすよ~! 知らないんっすかぁ!?」
彼女は 「そんなんも知らんのかぁ。」 と言いたげな、呆れ顔で教えてくれる。
「妄想妊娠なんて言葉、知らんわぁ。 私、想像妊娠しか知らへんでぇ。」

笑いをかみ殺しながら、後輩に言う。
「はっ! また私、間違ってましたぁ?」
いつもそんな感じだ。

先日は電車の中で、
「お金ないから、給料日まで 『どっちもこっちも』 なりませんわ~!」
と大きな声で言い放った。
「・・・いや、 『どうにもこうにもなりません』 ですがな。」
ツッコみたい気持ちは山々だったのだが、楽しそうな彼女の 『話の骨』 を折ってはいけないので、その場は聞き流しておいた。
ちなみに 『話の骨』 は、ずいぶん前に後輩が社長に笑顔で言った言葉だ。

「コシはあってもホネは無いわっ!」
社長の見事なツッコミが忘れられない。
だが、そんな見事なツッコミも、
「話のコシって、どの辺にあるんすかっ!?」
と素で切り返してしまう彼女の方が、スゴイのかもしれない。

私の恩人は今日、「タンバリン」 で、一人パニックになっていた・・・

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